Mymed

気付いているのは私だけ

 金森さんは骨格がいい。猫背なのが勿体ないけど、例えば歩くアニメーションを考えるときにデッサン人形の代わりにはなるくらい。
 浅草さんも面白い。表情の参考になるし、話してると楽しい。
 だから、友達じゃなくて仲間だとはいうけれど、私は二人のことをよく見てると思う。
 例えば、二人で話した後に、自然に口元が緩んでいる金森さんとか。鼻と鼻が触れ合いそうな距離で金森さんが怒って、怒られているのに顔を真っ赤にする浅草さんとか。

(……お互い相手の気持ちどころか、自分の気持ちにもたぶん気付いてない)

 そのことに気付いたとき、私は思ってしまった。『面白い』と。
 屁理屈を言って友達じゃないと言い張るのが俄然面白い。
 そうして今日も、些細な恋心を表す作画イメージが増える。いつかアニメーターとして、絵コンテのコマとコマを繋ぐ描写に、こんなコマを入れられたらいい。私たちの性格上、恋愛を主軸に描くようなアニメは作らないだろうけど、説明する必要がない脇役の関係に入れたら物語の幅をきっと広げられる。まぁ、入れるとしたら浅草さんに相談が必要だけど。

(いいじゃん、仲間以上!)

 素直にそう思ってはいる。
 思えば私は、金森さんが何かを嫌いというのはよく聞くけれど、好きなものの話はあまり聞いていない。瓶牛乳は好きみたいだ。
 その数少ない好きの中に浅草さんが入っていることは、たぶん本人が思っている以上に明白で。
 例えばいつか、本当にこの作画イメージストックの成果を入れられて、同じことをしていると金森さんが気付いたとき。私はきっと、恋に気付いたときの作画イメージをストックできる。そんなことを思ってしまうのだった。
 我ながらちょっとヤバいなと思う。
 アニメーター水崎ツバメは、自分でも引くほど貪欲なのだ。だけどそれが、映像研では普通。そうでしょ? だから楽しいんだ、きっと。