Mymed

こころをよむ

お題箱より『修練大会の時の相手の考えてることが分かる魔術ネタ


 人類の姫たるオーロラ・栖夜・リース・カイミーンは愛すべき存在であり、愛されて当然の存在であり、そして、生まれた時から世界がそうだった彼女は当然のようにそれを受け入れていた。
 ただしそれは「人間界では」という前提の話であり、本人もそれを自覚していた。これ以上ないくらいに自覚していた。
 なので、アラージフに教わり使ってみた心を読む魔術の結果に驚いたのも無理からぬことだった。

(……夢だったのかも)

 魔力を使い切ってぐっすり眠り、牢のベッドに運ばれるときも目を覚まさず、それからしっかりとお肌のゴールデンタイムを享受して起きた姫は、あの時放棄した考えの続きを考えるのではなく、そう結論付けた。
 魔術大会が行われていた会場の冷たい床の上で目を覚まさない時点で、かなり丁重に扱われているのだけれど。そこには思い至らない。

「おはよう姫、朝ごはんよぉ~」
「おはようあんら~さん」
(あんら~さんはあの時いなかったし、「こころをよむ」を試してみようかな)

 しかし なにも おこらなかった!

(やはり魔術の方が間違ってるのでは……?)

 実のところからくり族のシザーマジシャンには心がない――なんてことはなく、m.o.t.h.e.r.によるプロテクトがかかっているためこの手の魔術耐性があり、弱体化しないとこころをよむが効かないのだが、そんなことを知る由もない姫は魔術の方が違う可能性についても視野に入れ始めていた。
 そうでないと――。

「姫、今週生き返らせる分を回収にきたよ」
「!」
「あ、ごめんね、まだ朝食の時間だったんだね」

 そうでないと、この男の好意についてなんらかのアクションを警戒しなければならなくなる。そのなんらかのアクションとは、姫の王族としての経験では大半が求婚で、婚約者が正式に決められた後も後を断たなかったそれにはかなり辟易していた。もっとも、それが姫の元まで届くのはごくわずかだったが、それでもということである。
 しかし、だ。
 辟易していたことへの警戒と言うには、頬を染める姫は説得力がなかった。
 国民が姫を慕うのは当然と受け入れている姫だが、その実国民からの言葉というのは具体性があるわけではない。黄色い歓声であったり、旗を振ったり、とにかくそういう行為で好意を示されることが多い。一方声が届く貴族がおべんちゃらを言ってきても心のどこかで本心ではないだろうと思っている。統一国家カイミーンにも、旧魔王城にいるような反乱分子がまったくいないというわけではないのだ。
 つまるところ、まっすぐどころかド直球の、心の底からの異性としての好意――、そんなものを姫は受け止めたことがまだなかったのである。
 姫は心を揺らす側ではなく揺さぶる側であり、選ばれる側ではなく選ぶ側である。
 断じて、きゅんとなどしていない。ときめいていない。驚いただけである。
 だが、心に刻まれるには十分すぎた。彼の想いは後々かなり重くなっていくが、言えるはずがないという悩むより以前には既に姫に届いているのだった。