Mymed

なかったことにする

「……なかったことにできたら……、レオ君にも出会わず、魔族の優しさも知らない頃に戻れたら、きっと何も迷わずに済んだ。でもそれは、人間だけの幸せのためだ。私はもう、それをいいとは思えない」
「じゃあ、他の」
「でも」

 俯いていた姫が顔を上げると、あくましゅうどうしの顔が目の前にあった。彼は祈るような目でただ姫を見つめている。

「でも、なかったことにする」
「……え?」
「私は森ででびあくまに出会ったところから、やり直す。自力で戻って、そうして、道中に出会った優しい魔族の話を人間に伝える」
「そんな、姫」

 目を伏せたあくましゅうどうしをもう一度抱きしめ直す。

「君がどこにいても、君は私のもの。危ないから連れてはいけない。でも、君が幸せに暮らせる場を作れるように頑張るよ」
「……決まったな」
「スヤリス、さん」

 すっと立ち上がりハデスにエスコートされて森へ戻る姫に、あくましゅうどうしは手を伸ばしたが、届かなかった。

(これでいい……)

 姫は一人、一度力尽きたあたりに連れてこられた。とはいえ、ハデスが連れてきたのは彼女を見つけた場所よりも、少し人間界に近い場所だ。

「むー」
「……でびあくま。仲間に呼ばれて戻ってこなかったくせに、調子のいい子だね」

 ツン、とつつくとでびあくまは空中で一回転した。

「ふふ、可愛い。……よし、帰ろう」

 あくましゅうどうしが傍にいたときよりも心細いが、武器がある分、魔王城を出た直後よりはずいぶんマシだ。
 魔王城からの追っ手とも何度も遭遇したが、進むにつれて魔族のレベルが下がること、戦うほどに姫自身のレベルが上がることで、人間界への逃亡は楽にできそうだった。途中、魔族の村に立ち寄ることもあった。争いが激しい場所を避け、少し遠回りすることもあった。
 二人旅よりも少し寂しいものの、恐ろしいくらいに順調だった。

「……ついた」

 ついに姫は人間界に逃れた。

「あの、この街の衛兵を」

 でびあくまは なかまをよんだ!

「え」

 姫が話しかけた人は消え失せ、姫は森に佇んでいた。
 でびあくまが冒険者に襲われ、仲間を呼んだらしい。

「……でびあくまが呼んだ敵……?」
「え、人間じゃね……?」
「……君たち……、冒険者……? 私は……」
「エリアボスか!?」
「うおおおおお!」
「!」

 襲ってくる冒険者に対し、姫は仕方なくはさみを構えた。剣でするように一閃、それで冒険者は倒れた。元々でびあくまと戦うような冒険者はそこまで強くない。姫の圧倒的な勝利だった。

「元の場所に……戻せる……?」
「むー? むー」
「……また……ここから……?」

 姫は、重い足取りで歩きだした。しかし一度は踏破した道のりである。一度目よりも短時間で(といっても数日かかっているが)つくことができた。

「……今度こそ、着いた」

 町に着いた姫はすぐに衛兵がいる詰め所に駆け込んだ。

「すまない、私は、オーロラ・栖――……」

 でびあくまは なかまをよんだ!

「……」
「……」
(また……森の中……)

 姫はまた、冒険者を倒して人間界を目指した。そしてまた、でびあくまに呼び戻される。何度繰り返しても、森の中からのスタートになる。
 でびあくまの仲間と認識されるようなものを身に着けているわけではない。一緒に寝た仲間と認識されているらしかった。
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!

(いつになったら、帰れるのだろうか)

 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!

(帰れることはないのだろうか)

 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!

(いっそのこと、でびあくまを殺すか?)

 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 でびあくまは なかまをよんだ!
 姫の冒険は、永遠に続くのだった。


BAD END.