初夜
R-18のため18歳未満の方はご遠慮ください。
魔王との戦いで半壊した旧魔王城で栖夜姫とあくましゅうどうしの結婚式が行われたのは、姫がカイミーン城に戻ったちょうど一年後、婚約からは十一ヶ月後のことだった。歴史的な婚約とあって世界は婚約発表からその日までお祭り騒ぎであったが、それとは対照的に式はひっそりとしたものだった。貴族は婚約の祝いを出すに留め、ほとんどが式への参列を辞退した。
王は姫の言葉を真摯に受け止めてより良い未来のために魔界との和平を進めたが、カイミーン城の高官及び貴族には、相変わらず魔物に身も心も魔物に奪われたと考えている者が多く、国費を使うことをよしとしない勢力があった。そのため、王族としては異例の親族のみの式となったのである。
――すまない栖夜。これが現実だ。それでもどうか、彼と仲睦まじく幸せに暮らしてくれ。
王の祈りにも似た謝罪の言葉は、暗に二度と人間界には戻れないことを示唆していた。とはいえ、おそらく会いに行けないだけで来てはくれるはずだ、と彼女はほとんど気にしていない。
家族は変わらずとも国からの冷遇を受ける姫の転居についてきた侍女は姫が幼い頃から仕えているほんの数名だけで、志願した近衛兵はたったの一人だった。
そんな物寂しい旧魔王城で、姫は今後、姫という肩書きをなくし旧魔王城城主の栖夜として生きていくことになる。数時間前に式が終わり数少ない客を全て見送った栖夜は、侍女たちにウェディングドレスを脱がされ風呂でもち肌にされているところだ。
「今後は私がここにいることが平和の象徴となる。おそらく公務はほとんどない。侍女頭、ここでできる事業を始めるなら何がいい?」
「栖夜様、今日はそんなことを言う日ではありません」
「でも暇だろうし。従業員もいないから君たちにも手伝ってもらうことになると思うよ」
「いいですか栖夜様。結婚生活が天国と地獄のどちらかになるかは、初めての夜、つまり今晩が肝心なのです」
「初めての夜……淑女教育で言っていた気がする」
「淑女たるもの、じっと耐え抜くのですよ」
「耐え抜く……?」
ホカホカの栖夜に夜用の香水をつけ、侍女たちは「本日は近くにおりませんので」と言って栖夜を寝室へと送り出した。
「……じっと耐え、動かない、声を出さない……? あとなんだっけ……。まさか、食べられるための作法があるとは」
(しかし、レオ君は私の生肉を食べるのだろうか。焼肉とかは嫌だなぁ)
栖夜は指を折りながら淑女教育で言われたことを反芻する。肝心なところが違うことには誰も気付かなかった。ベタな勘違いではあるものの、通常は到底受け入れられるものではないのですぐに解かれる誤解だ。しかし栖夜は、そこをあっさり彼にならいいかと考えていた。彼女も大概重いのである。
栖夜がソファーに座り用意されていたホットワインを飲んで待っていると、目を泳がせたあくましゅうどうしが入ってきた。彼ももう十傑衆のあくましゅうどうしではなく、旧魔王城城主の伴侶のレオナールだ。後ろからドンッと押されてよろけつつ入ってきたので、おそらく睡魔あたりが連れてきたらしかった。意外と侍女頭かもしれない。
「スヤリスさん……」
レオナールは真っ赤に頬を染め、目を潤ませていた。式の最中も、同じような顔でウェディングドレス姿の栖夜を見ては感極まっていた。
「長い一日だったね。ホットワイン飲む? 薄着だからなんだか寒くて」
「寒いの?」
もじもじとドアの前で動かなかったレオナールだったが、栖夜の言葉に弾けるようにソファーに駆け寄り、パジャマの上に着ていたガウンを栖夜にかけた。成り行きで隣に座ったものの、彼はどきどきと胸を高鳴らせたまま並べられた酒を見た。
「あれ、レオ君はコレの下にパジャマ着てるの?」
「う、うん」
レオナールのパジャマは一番上までしっかりとボタンが留められていた。栖夜は「私は侍女が着せてくれなかったよ」と自分が着ているガウンを引っ張ると、ブラジャーの白いレースの肩紐が覗き、レオナールは慌てて目をそらす。
(白……! ……しかもいい匂い……!)
レオナールは、栖夜の侍女による据え膳にかなり動揺していた。彼は初夜から夫婦の営みをするつもりは一切ない、と自分に言い聞かせてここまで来た。というのも、婚約が決まってからというもの日に日に栖夜がより眩く、より美しく見え、心乱されて直視するにも心の準備がいるほどだったからである。理性が飛んでしまえば自分が何をするかわかったものではなかった。
(怖い思いをさせるわけにはいかない! ……一応爪は切ったけど)
準備万端じゃないか、とセルフツッコミしながら彼は両手で顔を覆った。するつもりはないと言いながらばっちりと期待してしまっている自分に嫌悪する。
レオナールが百面相している隣で、栖夜はガウンの上から肩にかけられたガウンを手繰り寄せ、「いい匂い」と呟いた。
「あの、スヤリスさん。えっと……、その、今日は……その」
「いいよ」
レオナールが「今日はやめよう」と言うつもりで言葉を探しているとき、栖夜は逆の意味だと思って頷いた。
「いいよ、やろう」
「女の子がやるなんて言っちゃだめだよ!」
「ん……、じゃあ、私を食べて」
「い、いいの? 本当に?」
「うん」
じゃあ、と少し距離を詰めたレオナールが栖夜の肩を抱き寄せ、恐るおそるキスをする。ふかふかのソファーは深く沈み、栖夜の体はわずかに彼のほうに倒れた。
初めはただ唇を重ねるだけだったが、やがてレオナールの舌が栖夜の唇をなぞり、舌を入れると栖夜は「んっ」と小さく吐息を漏らした。これでレオナールはすっかり調子に乗ってしまい、押し返そうとする栖夜の舌をちゅうっと吸ったり自らの長い舌を絡めたりしながら自分が着せたガウンを少しずつ脱がせていった。
唾液が混ざり、レオナールがわざと音を立てて舌を吸うので栖夜はその度に閉じていた瞼を更にぎゅっと閉じる。
栖夜は少し呼吸が荒くなるのを恥ずかし気にキスをやめようとしたが、レオナールは向かい合う体勢で自らの膝の上に栖夜を乗せて腰のあたりを抱きしめる。
「や、やっぱり、なんか」
「寒いんでしょ?」
身を捩る栖夜を抱きしめたまま彼女の耳元で囁くと、栖夜は「ひゃっ」と声を上げレオナールに縋りつくように体重を預けた。そのまま栖夜の形の良い耳を唇ではさみ、舌でなぞると彼女は自らの唇を噛んで小さく体を震わせた。
栖夜が体を震わせる度、レオナールの鼻先にふわりと甘い香りが漂う。それは人間界で古くから催淫効果があるとされ、夜用の香水として人気の香りだ。実際にはそんな効果はないのだが、そう信じられているということは知っている。どうやら侍女はかなり初夜を重要視しているらしかった。
「……っ」
(声を出したら淑女じゃない……っ、耐えないと……)
栖夜が羞恥に耐えているとき、レオナールは二人のお腹の間にあるガウンの緩く結ばれたベルトをするりと外した。そのままはだけさせることもなく、再び栖夜をガウンの下で抱きすくめて耳を犯していく。栖夜はと言うと、耳の穴に舌を入れられる度に腰のあたりがゾクゾクとして両手で口を覆っていた。
「ん、ふ……っ」
「声、我慢しないで」
「や、やだ……、私、淑女、だもん……っ、ぁ」
(顔、顔とろけてきた……)
力が抜けてきた栖夜の口を覆う手を外し、再び唇を重ねる。仕返しとばかりにレオナールがしたように彼の舌を吸う栖夜が可愛くてたまらず、チロチロと舌の先を這う舌に軽く歯を押し当てた。すると、舌がぴたっと止まり、おろおろと引っ込めようとする。レオナールはふふっと笑みをこぼしながら、逃げようとする栖夜の舌をまた吸った。
ガウンをはだけさせ、総レースのフロントホックのブラジャーを外すと、栖夜はキスのために閉じていた目を開いた。レオナールは片手で栖夜の頭を押さえキスをしたまま、その柔らかいふくらみに手を伸ばした。
(食べるんだよね? なんか、変……)
栖夜は既に奥までとろけ、蜜が溢れて下着を濡らしている。どうしたらいいのかと考えつつも、声を出さないようにと言われたのを守るのに必死で考えなどまとまらなかった。
胸を撫でまわされ、時には敏感な先端をコリコリといじられる。時折自分の腰が自分のものでないように痙攣するのが、栖夜は恥ずかしくてたまらなかった。
「んっ」
(また声出ちゃった)
「かわいいよ、スヤリスさん」
レオナールは、向かい合った状態のまま栖夜を膝立ちさせた。レオナールの顔の目の前に胸がある状態に、栖夜はさすがに嫌がったが、レオナールは栖夜の腕を後ろでつかんだ。細い手首は両腕分でも片手で掴むことができ、栖夜は腕が後ろに回ったことにより胸を突き出すような体勢で嫌々と首を振った。レオナールはわざと胸を避け、鎖骨や脇にキスをしていき、焦らしに焦らした後に胸の先を口に含んだ。
わざと音を立てるのは、栖夜の羞恥心を煽ると知っていてやっている。ちゅうっと吸うと、栖夜は足を閉じようとレオナールの太ももを挟んだ。
その様子にピンときたレオナールは、まさに悪魔の微笑みを浮かべて栖夜に囁く。
「こっちはどうかな」
「や、やだ」
レオナールの手が柔らかなお腹からブラジャーとセットの総レースの下着の隙間へと指を滑らせた。そして、そのしっとりと濡れそぼった割れ目に指を這わせると、栖夜はひっと声を漏らした。指で形を確かめるように割れ目をなぞりながら再びツンと硬くなった胸に舌を這わせる。
栖夜が声を我慢しようとすればするほど、レオナールは執拗に責め立てる。栖夜の両手は相変わらず後ろ手に掴まれている。耐え切れなくなった栖夜が思わず腰を引くと、レオナールはそれとほぼ同時に指を沈めた。
「んんっ」
栖夜は声が出そうになり、レオナールの肩に顔を埋めるようにして彼のパジャマを噛んだ。するとレオナールはちょうどいい位置とばかりに再び栖夜の耳をはむっと咥えた。耳の奥に直接いやらしい水音が送り込まれてくる状況に、栖夜はきゅんと彼の指を締め付けた。
「も、もう、や……」
「じゃあ終わろうか」
栖夜がほっと息を吐いて体の力を抜くと、レオナールは栖夜の中をまさぐる指を増やした。栖夜がえともあともつかない声を漏らしたとき、彼の親指が少し充血した場所をコリコリと弄り、中の指を折り曲げ体を摘まむように擦り上げた。
「~~~っ」
栖夜が声にならない声を上げて脱力すると、ようやく彼は指を引き抜いた。糸を引く液体、一部白いそれを舐めとると、彼は薄く笑った。
栖夜は足の力が抜けレオナールにもたれかかる形で体を預けて荒くなった呼吸を整えようとしている。その間にレオナールがブラジャーのホックを留め、ガウンのベルトを締め直すのもされるがままに、彼女は不服そうな顔をした。
「寝ようか」
「いじわる!」
「やりすぎちゃったかな」
「いじわるだった!」
「ごめんね、君が可愛くって」
親指を握りこんだ力のない拳でポカポカとレオナールの胸を叩くも、彼は可愛いというばかりだ。彼女がもういい、と手を下ろすと自分と彼の間にそびえ立つ存在に気付いた。
「これ、って」
「寝ようね。ベッドに運んであげるから」
運ぶと言っても、抱き上げ方によっては腰への負担は計り知れない。要は、腰に負担がかからなければいいのだ。かがむときには腰ではなく膝を曲げればきっと大丈夫。ベッドまではせいぜい六歩、いや七歩ほど。絶対に腰を痛めないという強い意志の元、普段はこんなことに使わない回復用の死者の腕を支えに使いつつ栖夜をお姫様だっこしてベッドにおろした。
栖夜に布団をかけ、その額にキスを落とす。
「おやすみ、スヤリスさん」
「栖夜って、呼んで……」
「照れるけど、努力するよ」
栖夜は程よい疲れの中、だんだんとまどろんでいく。一方レオナールはなんとか自らの猛りを抑えようとトイレに入った。先程の栖夜の痴態を思い出すだけで汁がとろりとあふれてくる。彼は、自らのパジャマを噛み声を殺しながら自分の欲望を処理した。そうして何食わぬ顔でベッドに戻ると、栖夜がうっすらと目を開けた。
(大丈夫。もう、理性は取り戻した)
レオナールの胸に頬をすりすりと寄せる栖夜が可愛くて仕方ない。腕枕をして悪ノリしたことを反省しつつ、レオナールも目を閉じた。
翌日。栖夜がぱちっと目を覚ますと、レオナールはまだ深い眠りの中にいた。彼の腕の中にあってくすぐったい気持ちで深呼吸をすると、彼のいい匂いが鼻孔をくすぐる。
(……昨日は、食べられなかった。なんか……ちょっと恥ずかしかったな)
頬を染めながら昨晩のことを思い出す。自分でも触ったことのないような場所を触られ、挙句嬌声を上げた自分を思い出すと栖夜は羞恥よりもめらめらと対抗心のようなものを燃やした。
(確か、しっぽが弱点だったはず)
立ち寄った村で触ったとき、真っ赤な顔で止められたことを覚えている。栖夜はごそごそと手探りで寝ている夫のしっぽを探した。穴があるのかと思っていたが、パジャマの上の方に切り込みがあり、そのスリットを通しているらしかった。その根元を掴み、撫でまわす。
「……ん、んんっ」
(やっぱり、痛いよりくすぐったい弱点なんだ)
レオナールは何をしても小さく喘いだ。撫でても、ぎゅっと掴んでも、指で擦っても。
(なんか、可愛いな)
しばらくそうしていたが、お腹に硬いものを感じふと気になって触ってみる。それは昨晩も気になったもの。パジャマの上からつつくと栖夜の指を柔らかく押し返した。
不意にその手が掴まれ栖夜が顔を上げると、うつろな目のレオナールがこちらを見ていた。呼吸が浅く、口で呼吸をしている。
「……おはよう、レオ君。昨日は最後までじゃなかったし、今日は」
「煽ってきたのはそっちだからね」
エサを前にした動物のようなギラギラとした目で栖夜に覆いかぶさり、その首筋に噛みつくように舌を這わせる。栖夜のガウンを脱がせ、下着もはぎ取るように脱がすと栖夜は驚いて布団をかぶろうと引っ張った。そんな栖夜を跨ぐようにしながら、自分のパジャマも脱ぎ捨てる。栖夜はその時初めて、彼のそそり立つものを見た。
「……そ、それ」
栖夜の手を取り、それを掴ませる。栖夜の指の中でそれは別の生き物のように脈打った。
「最後までシたいんでしょ? いやらしい子だなぁ、スヤリ……栖夜さんは」
「え、えっちなことじゃ」
「いっぱいしてって言ってたもんね。いっぱいしてあげるね」
(もしかして、『食べる』ってこういう意味があるのか!?)
ようやく気付いた栖夜が今までの言葉を思い出す。その意味で思い直すと、随分過激な発言ばかりだったように思えて栖夜はかぁっと頬を染めた。
「ち、違うのっ、私、食べるって本当にバリバリ食べるってことだと」
「ごめんね、そうなんだろうなってわかってたんだけど可愛くて」
「だ、だから、心の準備が、んむっ」
キスで口を塞がれ、未だに肌に残る昨晩の快感をなぞるように体をとかされていく。違う違うといいながら、体はどんどんその準備を始めていった。
深く舌を絡めた後にレオナールが顔を上げると、二人の混ざった唾液が細く繋がった。そのまま首筋へとキスをし、鎖骨からその下へと下がっていくと、栖夜は恥ずかしそうに体を隠した。その腕を持ち上げ、露わになった脇をペロリと舐める。
「ひゃっ」
「ここも感じるの?」
「れ、レオ君の、触り方のせい、だもん」
「全身こんな感じかな」
脇の下、背中、腰、膝の裏。およそ思いつく限りの皮膚が薄い場所を舐め尽くすと、栖夜はその度に息を殺すように口を押えた。彼の予想通り、全身が敏感な様子で栖夜はフーッフーッと涙目で声を我慢している。
(私、こんなにいやらしくないのに……!)
「そんなに嫌ならやめるかい?」
レオナールがようやく意志を尋ねたのは、散々触られ、濡らされ、栖夜が何度か彼の指で果てた後だった。荒い呼吸の栖夜がゆっくりと首を振る。
「どうしてほしいの?」
そう尋ねながら、栖夜の足を持ち上げ、先程まで指でいじっていたそこに口をつけてぢゅっと吸った。舌を入れられると、栖夜は彼の頭を押さえつけて逃げようとしたが、ほとんど力が入っていないそれにレオナールが押しやられることはなかった。
「……っ、~~~んっ」
また軽く果てて、栖夜の奥からとろりと蜜が溢れる。
受け入れる準備は整ったと言わんばかりのそこから口を離し、今度は太ももの内側をぺろりと舐める。
「これだけじゃ切ないんじゃないかなぁ」
「何を、言わせたいの」
「私がほしいって」
「レオ君が、ほしい」
レオナールが心から嬉しそうに栖夜の体のいたるところにキスをする。その度にぴくっと小さく反応しながら、栖夜はぼんやりこれまでの旅のことを思った。
初めの村で同じ部屋を拒絶していたのはこのようなことが起こり得るからで、オワリノシティでレオナールが死んで詫びようとしていたのはきっとこの先の行為なのだ、と。夫婦となった今、彼を止めるのは栖夜が心の底からの拒絶だけだろうが、どうやらそれも自分にはないらしい。
「栖夜さん、本当に本当に、愛してるよ」
そう言いながら、レオナールははち切れそうなそれを栖夜に押し当て、ぬるぬると滑るそこにゆっくりと腰を押し進めていった。栖夜が体をのけ反らせながら(じっと耐えるって、これか)などと思考が飛んでいくのをシーツを掴んで思考を引き戻す。栖夜の眉根にわずかにしわが寄ったのを見て、レオナールはそれ以上進むのをやめた。
「痛いんじゃない?」
「我慢、できる。淑女は、耐えるものなんだって……教えてもらった」
「そんなの違うよ。栖夜さんには気持ち良くなってもらいたい。声も抑えるものって習ったの?」
「……うん」
「いいんだよ。何にも我慢しないで。気持ち良くなってほしいんだよ」
「う、うん……ちょっとずつなら、大丈夫だから……」
栖夜がほっと息を吐くと、彼はゆっくりと腰を引いた。そして栖夜にキスをしようと顔を近付けると、再び先程進むのをやめたところまで辿りつく。栖夜がレオナールの首に腕を回しキスをねだる間にも少しだけ抜き、また戻す。少しずつ滑りが良くなり、二人は本当に少しずつ深く繋がっていった。舌を絡めつつ、レオナールが繋がっている少し上をつまむと、栖夜がキスから意識がそれるので再び追いかけて口を塞ぐ。
(あと少しで、全部入る)
「あっ」
栖夜の腰がびくっと震え、奥までいざなおうとするかのように少しレオナールを締め付けた。その瞬間、彼はキスをするのをやめ一気に貫いた。
体が押し開かれていく感覚に栖夜が再び大きくのけ反り達する瞬間、レオナールはくっと笑った。レオナールの荒い息が栖夜の耳にかかる度に、栖夜は彼の形を確かめるように締め付ける。得も言われぬ快感に、レオナールも切なげに栖夜の名前を呼んだ。
「栖夜さん」
「ひ、ぁ」
「動くよ」
先程と同じくらいゆっくりだが、先程よりも大きく腰を打ち付けると栖夜はその度に矯声を上げる。足を閉じようとするので片足の膝の裏に腕を通し大きく足を広げてその足にキスをすると、栖夜は恥ずかしそうに枕を顔の上に持ってきて押し当てた。彼はすぐさま枕を奪い、栖夜の腰の下に敷いた。
「だめだよ」
栖夜の耳元で囁くと、栖夜が大きく喘いだ。そのまま耳元で「好き」「愛してる」と囁き続ける。レオナールが愛の言葉を囁く合間に、繋がったところから聞こえる水音がねっとりと耳に残る。
半端に角度のついた体勢に、栖夜は再び彼の首に腕を回し体を支えようとした。お互い上半身を起こし抱きしめあう体勢となって、キスをしながら求めあう。
「やっ、恥ずかし、ぃあっ」
(ここでやめてと言われてもやめられる自信はないな)
可愛すぎる栖夜の喘ぎ声に興奮は昂るばかりだ。栖夜の腰を掴みながら更に奥を目指すかのように腰を突き上げると栖夜が大きく体をのけ反らせてまた達した。びくびくと絡みつく栖夜の中にレオナールが動くのをやめて腰を曲げ栖夜の胸に口付ける。栖夜は自分が声を上げるのがまだ恥ずかしく、目の前にあった彼の角をかぷっと噛んだ。栖夜が腰をくねらせた瞬間、レオナールが小さく喘いだ。
「レオ君も、気持ちいいの?」
「や、あっ、だめ、だめだよ」
それまで激しく責め立てていたレオナールが顔を真っ赤にして恥じらうので栖夜はもう一度腰をくねらせた。彼が探り当てるよりもピンポイントに、自分の気持ち良い場所にも当たるため動きはぎこちない。彼の角を噛んだまま声を殺してみたものの、レオナールがもう無理とばかりに彼女を抱きすくめた瞬間に口が角から外れた。一番深く繋がった瞬間で押さえつけた形になる。彼女が腰を引こうとするのさえ二人にはただの快楽だ。
「あっ、あ……っ、栖夜さ……」
「……んっ」
「栖夜さん……っ、栖夜」
不意に栖夜の指がレオナールのしっぽに触れた。彼女はそのまま手探りをそれを掴んでみた。するとレオナールがひときわ大きく声を漏らした。
「あっ、触っちゃ、あっ、ひ」
もはや腰を引くこともなく、栖夜の一番奥へと押し付けたまま吐精していた。栖夜はというと、中で更に大きくなったものが熱く、これまでのどの快楽よりも強い刺激に一瞬意識すら手放しそうになった。
レオナールが後ろに倒れ、小さく痙攣する栖夜が繋がったまま目を閉じる。お互いの汗が混じりあうまま、息が整うまでそうしていたレオナールだったが、やがて栖夜を起こさないように彼女の中から己を引き抜く。どろりと溢れでた白濁に赤いものが混じっていて、今更ながら栖夜と繋がったのだと頬を緩ませる。
「愛してるよ。栖夜……さん」
いまいち呼び捨てにはしきれないまま妻にキスを落とすと彼女は夢の中にいながら微笑んだ。
この様々な体液が飛んでいるシーツは彼女が連れてきた使用人には見せたくないな、と栖夜を一度ソファーへ運びシーツを代え、洗濯をし、それから栖夜にガウンを着せて自分も横になる。
栖夜が目覚めたとき、下腹部にはひりひりとした痛みが行為の痕跡として残っていた。当然ながらあんなに乱れたことはなく、すごい経験だった、と栖夜はぽっと頬を赤らめる。隣にはまだレオナールが寝ている。
(……角に、私の歯形が……)
よく見ないと気付かないほど薄くではあるものの、歯形が残っていた。レオナールの角を撫でてみたが、それは消えそうになかった。起きてシャワーを浴びようとガウンを羽織って立ち上がると、太ももに力が入らずがくっと膝の力が抜けた。
「!?」
(こ、腰が立たない……)
ベッドにしがみつく形でギリギリ尻もちを回避した栖夜は、ベッドに戻ろうとしたときに自分の中からレオナールが出したものがどろりと出てきて太ももを伝い、うわっと声を漏らした。その声でレオナールが目を覚ますと、ベッドに上がれずに彼に手を伸ばした栖夜を引っ張り上げる。
「歩けないみたい」
「えっ、ごめん! そんなに激しくしたつもりは……いや、うん、ごめんね」
「私こそ、もしかしてすごい我慢を強いていたのかなって思って……」
「君は無防備すぎたから、大変だったよ」
レオナールがぎゅっと彼女を抱きしめて笑う。それからそっと栖夜のお腹に手を当てて、治療の魔術を施す。ひりひりとした痛みが消えた栖夜は気にしなくていいのに、と微笑んだ。そんな栖夜に軽くキスをして、「何か食べるものを持ってくるよ」と言って出ていった。栖夜は再びベッドに倒れて目を閉じる。目が覚めた原因の痛みがなくなったのでもう一度眠くなってきた。
(なんて平和な朝)
その象徴としては、きっとうまくできている。きっと、死がふたりを分かつまで。
True End.
お読みいただきありがとうございました。一番好きなシーンは声を我慢しようと角を噛むところです。今後歯形が増えていくんだねきっと。