Mymed

悪魔の午睡

 前線の悪魔がほとんど現れなくなった。それは、人間界と魔界の両方において良い報せだった。討伐のための休戦の話し合いは既に始まっている中での出現率低下に休戦はなくなるかと思われたが、両者はある程度の見解の一致と譲歩を見せ、そのまま休戦となる見込みが報じられた。
 ではその頃、その元凶の二人はどうしていたのかというと、DIYをしていた。あくましゅうどうしは昔から憧れていた洞窟に男の隠れ家を作り、睡眠の質を追求し始めたスヤリスは理想の寝具を作って過ごしているため、冒険者や魔物が落とすお金目当てに前線で暴れることはほとんどなくなっていた。二人分の食料なら近くの村で受注するクエストの報酬だけで十分だ。

(案外、魔王城に連れ戻されていても寝具作りで退屈しなかったかもしれない)

 そんなことを思いながら理想の枕を眺める。
 洞窟を改造するのは二度目だったが、今回はただの雨宿り用に整備するのではなく、住居を作っている。中は用意した明かりで意外と明るい。そして、焚火を置いただけのキッチンとドラム缶のバスルームがある。それに、今回スヤリスが作ったベッドだ。

「スヤリスさん、見て!」
「?」

 あくましゅうどうしに呼ばれて出入り口へ行くと、洞窟が大きな岩で塞がれていた。

「これじゃ出れない」
「ただの岩に見えるでしょ? 一部は魔術でそう見えているだけでね、私とスヤリスさんの魔力に反応して出入りできるんだ。すごく隠れ家っぽくなった」
「すごいね」
「でも外の光が遮断されて暗くなったね。ここにもヒカリゴケを植えよう。さぁ、暗いから手をどうぞ」

 あくましゅうどうしがエスコートして洞窟の奥に戻る。そこにはスヤリスが作ったベッドが鎮座していた。

(ベッドしかない部屋って、オワリノシティを思い出すな)

 醜態を見せたことを思い出し遠くを見るあくましゅうどうしに対し、スヤリスは自慢げにベッドを見せる。それはセミダブルサイズほどのベッドだった。天蓋付きで虫の侵入をしっかり拒んでいる可愛らしい出来に、スヤリス自身はかなり満足している。

「上手に作れたと思わない?」
「うん、すごいね」
「ねぇ、寝てみたいでしょ」
「あ、これ、私のベッドかい? てっきりスヤリスさんのかと」
「ううん、二人の」
「え、でもこれ一人用……」
「幅は計ったよ。計測器とかないから、こう、寝転がって計って……私三人分で、いいかなと思ったんだけど……」

 二人が仰向けに並んでぴったりの幅で、二人で寝ることを想定したとしたら明らかな失敗だった。
 寝転がって三人分、と見せながら幅が足りないと気付いたスヤリスだったが、少し考えてから立ち上がり、あくましゅうどうしをベッドに押し倒した。

「こうして、くっついて寝れば大丈夫だから」
「全ッ然!! 大丈夫じゃないんだけど!?」

 確かにあくましゅうどうしがスヤリスを抱きすくめてしまえばベッドから落ちる心配はない。しかし、これまで同じベッドのときはクイーンサイズのベッドで、一人分は離れて寝ていたあくましゅうどうしには無理な話だった。
 スヤリスに押し倒されたままあくましゅうどうしは顔を両手で覆った。

「私は……ほら、昨日寝るのに使った藁があるから、あれでいいから」
「嫌だよ。一緒に寝て」
「でも、すごく近いし」

 スヤリスはあくましゅうどうしのお腹にまたがったまま彼を見下ろしていたが、やがてゆっくりと体を倒し、黙って彼の首筋を舐めた。突然の出来事にあくましゅうどうしは気絶寸前だが、なんとか持ち堪えた。

「な、何、何するのっ!?」
「オワリノシティで、何でレオ君は私を舐めたんだろうってずっと考えてて……なんか今、すごく美味しそうに見えて」
「美味しそうって」

 スヤリスがそのままあくましゅうどうしにキスをする。それは、旧魔王城でのキス以来の二度目の彼女からのキスだった。唇を柔らかく押し返す弾力が面白いのかくすくす笑いながら体を起こし、ペロリと自分の唇を舐める。あくましゅうどうしが見上げるその姿は彼のキャパシティーを大きく超えて扇情的だった。

「おやすみのキスだよ。おやすみ、レオ君」

 彼が気絶するのを待って、スヤリスはお風呂に入った。

(ベッドを作り直すまで、レオ君にゆっくり寝てもらうためにはあれしかないかもな)

 ゆっくりとお風呂から上がって寝る準備をしたスヤリスは、気絶したあくましゅうどうしの服の襟元を緩めた。いつもしてもらうように額にキスをして、自分で作った枕のことをすっかり忘れて彼の腕を枕にして目を閉じた。

(明日は、お風呂に入った後に気絶させよう。でも臭くない……いい匂い)

 夜中にあくましゅうどうしがハッと目を覚ますと、スヤリスが腕の中にいた。悲鳴を上げそうになるのをなんとか堪えていると、ふわりと彼女のシャンプーが香った。それにより完全に覚醒して気絶させられたことを思い出す。
 怖がらせたくない。傷つけたくない。それなのにこんなにも体は彼女を欲している。あくましゅうどうしはスヤリスをぎゅっと抱き直して、小さくため息を吐いた。これからも理性的でいられる自信がない。彼女が無防備すぎて、危ない。かといって、彼女のせいにもしたくない。
 いつもねだってくるおやすみのキスをしようと彼女の小さな額に唇を寄せ、それから「好きだよ、スヤリスさん」と囁いた。瞬間、彼女が「んっ」と吐息を漏らしぴくっと体を震わせる。

(耳が弱いのかな)

 まだ眠くないあくましゅうどうしは、何度か耳元で愛の言葉を囁いた。その度にスヤリスの体が反応するのが可愛らしく、満足するまで気絶させられたことへのちょっとした仕返しをして、それからようやく寝ることにした。
 
 翌朝、スヤリスはさっそくベッドの拡張に取り掛かった。とはいえ、マットレスは単純に並べるだけではうまく寝ることができそうにない。そもそも素材が足りない。
 ベッドの拡張ができなければまた気絶させられてしまう、とあくましゅうどうしも手伝おうとしたが、残念ながら手伝う内容がなかった。本日は粗末なお風呂を拡張する日としよう、と二人でバスルームをドラム缶から岩で囲んだ浴槽にできないかと試行錯誤する。その途中、あくましゅうどうしがポツリと呟いた。

「……今日は藁で寝るから」
「だめ!」
「なんで? 私の理性にも限界があるんだよ」
「だっていい匂いだし、よく眠れるから」

 スヤリスは(もしダメでも気絶させよう)と思っているし、あくましゅうどうしは(気絶させようと思っているんだろうなぁ)と思っている。
 そのための牽制として、あくましゅうどうしは「スヤリスさん」と呼び掛けた。

「キスだけではもう気絶しないからね」

 彼女は顔には出さないものの、考えが読まれていたことにムキになってしまい、猛反論の姿勢をとった。

「なんで嫌なの? あんなに好きって言ってたのに」
「えっ」
「夜。言ってた」
「そ、それは……。でも、あんまりくっついて寝るのがだめなのは、好きだから、傷付けたくないから、で」

 どうやら昨晩のいたずらがバレている。あくましゅうどうしは心臓がバクバク鳴るのを止めようとするかのように自分の胸のあたりを押さえた。

「前も、怖がらせたくないって言ってたね。なんで傷付いたり怖がったりするって決めつけるの?」
「君はわかってないんだ。私が何を我慢してるのか。それは君が私を嫌いになる可能性だってあって」
「わからないよ。教えてくれないじゃない。教えてって言ってるのに」
「……」

 自分の中の悪魔が囁く。
 ここまでちゃんと断ったのに来るんだから、いいんじゃないか?

「……! いや、だめだよ。お願いだから、もっと自分を大切にして」
「レオ君は……私を害さないことを、私は知ってる。……それは私を害するものなの?」
「わ、からない。痛いこともあるって」
「痛くないこともある?」
「わ、私の逃げ道を作らないで!!」

 洞窟の中にあくましゅうどうしの悲鳴がこだまする。彼はこれ以上一緒にいたら丸め込まれてしまう、と立ち上がった。

「もうこの話は終わり! 私がお風呂をするからスヤリスさんはキッチンをして」

 バスルームから追い出されたスヤリスは、腕を組んで考え込む。

(あんなにいい抱き枕は他にない。諦めきれない)

 ――キスだけではもう気絶しないからね。

(キス以上なら、気絶する? でもキス以上って、なんだろう)

 教えてくれそうな相手がすぐに思い浮かんだスヤリスは、通信玉を持ってこっそりと洞窟の外に出た。

「もしもーし?」
『おや、これが鳴るのは珍しい』
「あっ、睡魔君。久しぶり」

 スヤリスは通信玉に向かって手を振った。音声のみの通信なので当然相手には見えていないが、睡魔の笑う気配もわずかに伝わってくる。

『元気だったか、娘さん』
「私もレオ君も元気だよ。あのね、さっそく本題なんだけど、レオ君の弱点って知ってる?」
『ケンカでもしたのか?』
「うん。レオ君がキスじゃもう気絶しないって言うんだけど、キス以上のレオ君の弱点ってあるのかなって思って」

 睡魔が一瞬息を呑んだ気配があって、またふっと笑う気配がする。スヤリスは応接室にいる睡魔を想像して少しだけ懐かしくなった。

『あぁ、そっち。キス以上なら、キスをしながら舌を入れるとかもある。それは人間にもあるだろう? 大人のキスってやつだ』
「大人のキス……! なんかいい響きだね。他は?」
『他? ……しっぽの付け根を撫でてみたらどうだ?』
「! でもしっぽは触っちゃだめって言われてる」
『弱点だからだ』
「なるほど!」
『同じように前も……、いや、それはダメだな。うん、それくらいだ』
「ありがとう!」

 スヤリスが通信玉を切った時、睡魔はまだ喋っていた。「気絶するのと理性飛ばすのは紙一重だから思いっきりやった方がいいぞ」と。しかしスヤリスは既に聞いていなかった。
 こっそりと洞窟内に戻り、キッチンの改装作業に戻る。バスルームの方が奥に位置しているので、外に出たことは気付かれていないようだった。
 キッチンは焚火を置いただけのものである。調理台や流し、火力の調節などほしい機能はたくさんある。もくもくと作業しているとすぐに夜になった。
 あくましゅうどうしは、何かを意気込んでいるスヤリスを見て嫌な予感しかしなかった。ドキドキしながら交替でお風呂に入り、髪を乾かし、それから少しのんびりと二人で話す。いつもの寝る前のまったりした時間を過ごすスヤリスに、考えすぎかとホッと息を吐いた。

「それじゃ、おやすみのキスをして」
「はい、おやすみ」
「もう気絶しないなら、口に」
(それで譲歩してくれるってことか)

 あくましゅうどうしは「わかった」と言いながらスヤリスの頬に手を当て、軽く唇を重ねた。その瞬間、スヤリスが首に腕を回し、濡れた舌をあくましゅうどうしの唇に滑り込ませる。

「!?」
(……ここからどうしたらいいんだ?)

 スヤリスが少し戸惑ったタイミングであくましゅうどうしがキスから逃れ、後ろに下がろうとした。スヤリスはすかさず次の一手とばかりにしっぽの付け根を撫でる。

「あっ、んっ」

 あくましゅうどうしが腰を引いて自分の口を手で塞ぐと、スヤリスは首を傾げる。

(気絶しないな)
「もう一回」

 スヤリスが前から抱きしめる形でしっぽを撫でると、両肩を掴まれ、引きはがされる。彼の呼吸は浅く、手負いの獣のようだった。

「もう、我慢できないからね」
「き、気絶は?」
「気絶するのはスヤリスさんかもね」

 あくましゅうどうしが再び唇を重ねる。その舌がスヤリスの唇をなぞり、唇を押し開くように舌を入れる。スヤリスの短い舌に舌を絡めると、彼女が小さく息をこぼした。

(大人のキスって、こうなのかな)

 頭の奥に甘い痺れを感じる。何か大事なガードが一つ緩んだような。
 彼が体の曲線をなぞるようにスヤリスの体を触ると心臓が早くなるのを感じた。あくましゅうどうしがキスをやめると、唾液が細い糸となって二人を繋ぐ。
 あくましゅうどうしがベッドに座り、その足の間にスヤリスを座らせる。後ろから抱きすくめるようにしてその首筋にキスをし、そっと舐めると、スヤリスは「んっ」と声を漏らした。

「耳が好きみたいだね」

 そう言うと彼女を耳を咥えてその中に舌を入れる。彼女が大きく息を吸い、ささやかな胸が上下するのを眺めながら、彼はスヤリスのパジャマに手を入れた。下着の上から彼女の割れ目をなぞる。

「んんっ、そんな、とこ」
「気持ちいい?」
「あっ、さ、触っちゃいや」
「君も私が触っちゃ嫌なところを触っただろう?」
「ご、ごめんなさっ、あっ」

 指の腹で撫で続けると、下着が少し滑るようになってきた。
 残念ながら彼の爪は凶悪に尖っているため、中を確かめたいという欲はいったん忘れることにする。その代わりに、下着ごとスヤリスのパジャマを脱がせ、彼女の手を誘導する。

「自分で触ったことある? ここ」
「ない……」
「ここに指を入れてごらん」
「入れ、る?」
「ここ」

 傷付けないように最大限の注意を払いながら、指の腹を浅く沈める。その場所を確かめて再び彼女の指を誘導すると、その手を掴んでぐっと指を押し込んだ。

「ひゃっ」
「ほら、自分で気持ち良くなってごらん。手伝ってあげる」
「れ、レオ君、ごめんなさい。や、やだ」
「こんなに濡れてるんだから上手にできるよ」

 スヤリスのパジャマのボタンを外し、上も脱がせる。胸を触ると彼女はすぐに手を休めるのでその度に耳を責めたてる。

「んんっ」

 あくましゅうどうしにも全身の緊張が伝わるほどにびくっと体を震わせたスヤリスが荒く呼吸をしているのをみて、彼は一度彼女を解放した。
 裸のままベッドに寝かせ、覆いかぶさるようにして彼女の首筋にキスをする。そして鎖骨を通り、平坦になっている胸を吸った。それからお腹にキスをし、足を広げる。髪の色と同じ銀色の薄い毛が生えているそこを押し広げ、顔をうずめる。

「っ、何、あっ」

 わざと音を立てて長い舌を入れると、スヤリスは悲鳴のように喘いだ。その声が洞窟に反響する。

「あっ、やぁっ、変、変になるっ、あぁ、あぁぁっ」

 軽く達してぐったりと力を抜いたスヤリスを前に、あくましゅうどうしは自分のパジャマを脱いでいく。

「ま、まだ何かあるの?」
「入れていい?」
「何を?」
「これ」

 スヤリスの手を自分の下半身に持って来てそっと握らせる。脈打つそれに、スヤリスはひっと息を呑んだ。

「レオ君は……これを我慢してたの……?」
「うん、まぁ……そうだね」
「これ、痛いの?」
「痛くないよ。ただ、スヤリスさんと一つになりたくて仕方ないってだけ」
「わ、私、怖い」
「わかった……。ほらね、怖がっただろう」
「で、でも! レオ君は、怖くないようにしてくれるでしょ?」
「え、いいの?」
「いい……。いい、よ」

 スヤリスが「それで、どこに入れるの?」と尋ねるので、彼女の足を開いてそこにあてがう。濡れた入り口にあてがうと、ぬるりと滑った。

「は、入る、かな」
「どうだろうね。力、抜いて」
「力抜くって、どうやって」

 あくましゅうどうしはスヤリスにキスをした。入り口に擦り付けるように、指でしていたように割れ目をなぞる。キスの合間、スヤリスが深く息を吐いた瞬間に彼の先がぬぷっと入った。

「んっ」
「先っぽ入ったのわかる? 痛いかい?」
「い、痛く、ない」
「じゃあ、もう少し入れるよ?」
「んんっ、い、痛っ」
「すごいよ、スヤリスさん。中、ちょっとキツいね」
「感想、やめて」
「まだ全部入ってないよ」

 先程指や舌が届いていなかったところまで侵入してきたあくましゅうどうしに、スヤリスは擦れるヒリヒリした痛みにぎゅっと目を閉じた。
 あくましゅうどうしはぐっと伸びてスヤリスにキスをした。意識がキスにそれたのを見計らって少しずつ押し進める。その度にきゅんと締め付けてくるスヤリスの中で、めちゃくちゃに腰を振りたいという欲望を必死に押さえつける。

「入った……」
「あっ」
「スヤリスさん、すごく綺麗だよ」
「んっ、ふ、ぁ」
「動くね」

 ゆっくりと腰を動かすと、スヤリスは小さく喘いだ。だんだんと滑りが良くなっていくので、少しずつそのペースを上げていく。

「可愛い、好きだよ、スヤリスさん」
「キス、して」

 両手を伸ばすスヤリスの表情はとろけている。それを見た瞬間、辛うじて残っていた怖がらせたくないという遠慮していた気持ちがはじけ飛んだ。舌を絡めるキスをしながら、大きく足を広げたスヤリスを上から押さえつけるように腰を押し付ける。

「あっ、だめっ、やっ」
「可愛すぎて、無理」

 スヤリスが達しても名前を呼びながら腰を打ち付ける。何度彼女が絶頂を迎えたかわからない頃、彼女の中から引き抜いて欲望を吐きだした。中ではないものの、完全に避妊できているかといえばそうではない。

(やってしまった……)

 汗も体液もそのままに、力尽きたスヤリスをぎゅっと抱きしめながら目を閉じる。
 一つの生き物のようにくっついて眠る二人がこうして寝ているほんの少しの間、世界は平和だ。


Happy End !?
ツイッターでわめいていた正常位で足にキスは別のところで登場予定です。何かのおまけとか。