Mymed

パジャマパーティー改

お題箱より『パジャマパーティー改~前回メンバー+ゼツランとのろいくんを添えて~』
お嬢と他メンバーは鉄の掟は恋愛禁止で面識ありってことでお願いします。


 なんでオレがいるんだろう。きっと誰もがそう思うだろう。オレだってそう思う。
 オレは今、姉さんに頼まれてパジャマパーティーに参加している。場所は姉さんの部屋で、メンバーは姉さん・姫・さっきゅん・オジョーさんだ。
 姉さんがお願い! と両手を合わせて拝み倒してきたのは、数時間前のこと。

「のろくんも来て! 憧れのアイドルが全員揃うなんて夢みたいで正気を保ってられないかも!」
「もう二度と男は入れないって言ってたのにどういうこと……。ていうか、姉さんも断らずにアイドルやれば普通に仲良くできたんじゃないの? ミスコン優勝者なんだから、姉さんだって十分センター狙えるでしょ」
「片手間じゃ姫を推せないのっ。一番に推したいけどヤギとかいうひとも絶対くるんだから。負けられない戦いなんだよ」
「あー、ヤギさんねぇ」
「とにかく、お願いだから今日のパジャマパーティーに来て!!」

 あんなに必死に頼まれて、断れるわけがない。オレにとって二度目となるパジャマパーティーは、一度目よりも格段に華やかだった。そもそも一度目が姉さんと二体だったから実家で寛ぐのと変わらなかったし。
 ちなみに、姉さんがヤギの正体に気付いていないらしいので、上司の体面が奇跡的に保たれていることに関してはわずかに心労を覚えている。やっぱりバレないようにした方がいいのだろうか。いっそバレていた方が精神的に楽だ。オレはね。

「えーっと、姫担のハーピィ、だったかのう」
「はいっ、姫担ですけど、箱推ししてますよ! こちらは私の弟ののろくんです!」
「……のろいのおんがくかです。他にも歯科医、内科医、古文研究家などいろいろやってます」
「よろしく頼む」
「お嬢にとってはアイドルのファンかもしれないけど、鳥ガールとはその前からトモダチで何回かパジャマパーティーやってるんだ」
「そんな歴史ある会に呼んでもらえるなんて嬉しいのじゃ!」

 オジョーさんが姉さんににこっと笑いかけると、姉さんは嬉しそうに羽をパタパタと動かした。本気で嬉しそうだ。

「鳥ボーイはね、パティシエもやってるんだよ。このお菓子も半分くらいは作ってくれたの」
「すごいのぅ。わしも作れるようになりたいものじゃ。時間があったらお菓子作りを教えてほしいのじゃ」
「あ、はい……」

 どんなひとなんだろうと思っていたけれど、アイドルというよりただの女の子だ。美人でからっとした飾らない人柄。姫たちが仲良くするのも納得だ。

「オジョーは誰かあげたい相手とかいるの?」
「わ、わしは、その……昔一緒に修行した奴のことが忘れられなくて。それで魔王城に来たくらいじゃから」
「はわわわわ、恋バナ……恋バナしてる……」

 姉さんがオレの背中をバンバンと叩く。何度となく失敗の話を聞いてきたので気持ちはわかるけど痛い。

「うがー! アイドルは恋愛禁止! なんだからね。私も本当はモテるけど、仕方なく恋愛禁止ルール守ってるんだから」
「そ、そうじゃな。さっきゅん先輩はさすがじゃの」

 さらっと嘘を吐くんじゃない。
 胸を張るさっきゅんに、オジョーさんは尊敬のまなざしを向ける。いや、たぶんもうあなたの方がいろいろ上回ってますよ……。

「お嬢はアイドル反対されてたんだよね」
「あぁ、サンドラか。今では応援してくれとるけぇ、心配してくれとっただけみたいじゃのぅ」

 サンドラって、十傑衆のサンドドラゴンさんがそんな名前だったよな……。
 十傑衆を呼び捨てなんて、どういう関係なんだ? というかあの方言、クーロン方言だよな。一度魔王様がクーロン島に誘拐されたっていう噂があったけど……。
 いや、だめだオレ。これ以上察してはダメだ!!

「パジャマパーティーなんだからさ、仕事の話は忘れたらどう?」
「そうだね」
「じゃあ、何を話す?」
「あ、そうですっ、人間界で見たおもちゃを再現してみたんですよ」

 姉さんがじゃーんとタオル地でできた柔らかそうな立方体を取り出す。オレの手のひらほどのサイズのそれには、文字が書いてあった。

「サイコロ?」
「はい! このサイコロを振って出たテーマに沿った話をするんです」
「あぁ、見たことある。鳥ガールやってみてよ」
「はーい。何が出るかな、何が出るかな」

 姉さんがサイコロを振ると、「最近悔しかった話」という面が上を向いた。

「最近悔しかった話! うーん……、あっ、先日拾ってきた原石をカットして姫にあげようと思ってたら失敗しちゃって……。あれは悔しかったなぁ」
「私もほしいー!」
「もちろん、お揃いができたらさっきゅんさんにもあげますよー。オジョーさんもですっ」
「ありがとうなのじゃ」
「次、私がサイコロ振りたい!」
「どうぞ、さっきゅんさん。何が出るかな、何が出るかな」
「何が出るかなぁ」

 さっきゅんが出したのは「最近楽しかったこと」だ。

「うがー……そうだなぁ、初の握手会!」

 えっ、と声が漏れそうになった。

「姫もオジョーも楽しそうだったし、ハーピィさんものろいさんも来てくれたよね。すごく楽しかった!」
「……よかった」

 姉さんに無理矢理連れて行かれた握手会。さっきゅんだけ異様に列が少なくて、あまりに不憫で並んだ覚えがある。姫が時間ちょうどの高速で列を捌く中(姉さんが言うには姫のような対応を塩対応というらしい)、さっきゅんは丁寧に挨拶をして、あまつさえ名前も聞いてタイムオーバーしていた(姉さんが言うには神対応というらしい)。オレは姉さんみたいに推しとかないけど、同じ悪魔教会エリアの魔物としては応援したいと思ってる。
 とはいえ、楽しかったというほどさっきゅんにとっていい印象だとは思ってなかった。
 一応のところ応援しようと思うと、少しは可愛く見えるものだな、と思う。

「他にも、はりとげさんとかもよく会うから頑張れよって来てくれたんだぁ」
「さっきゅんさんは神対応でしたもんねぇ」
「プロデューサーもさっきゅん先輩を見習えって言っておったのう。わしは緊張してしもうて」
「私もサキュンみたいな余裕はなかった~。鳥ボーイが来てたのも知らない」
「オレは姫の列には並んでないからね」
「え、じゃあ私のファン!? ふふん」

 いや、本当に楽しかったならよかった。本当に。
 さっきゅんが満足気にドーナツをかじる。話は終わりらしい。姉さんがサイコロを姫に手渡した。

「次は姫ですよ~」

 キャッキャと盛り上がる面々を眺め、今回はかなり楽しそうだと少し離れてココアを飲んだ。姉さんが自分で心配していたような暴走はしなさそうだし、オレは先に抜けてもいいかもしれない。ただ、けっこうタイミングを見極めないと盛り下がるかもしれない。慎重にいこう。
 姫のテーマは「最近の小さな悩み」だった。

「小さな悩みか。最近レオ君に会うと、夜にお腹すくんだよね。たまにお夜食を頼んじゃうんだ」
「わかるわかる。あくましゅうどうし様ってぇ、たまにあんこの甘い匂いがするよね。お腹すくー」
「うん。なんかこう、食べたくなるの。太っちゃいそうでね」
「それは女子の永遠の悩みですねぇ!」
「姫も太るかどうかって気にするんだね」
「気にするよぉ」
「もうちょっと太ってもええんじゃないか?」

 女子っぽい悩みに、やはり抜けようともう一度思っていると、次はオジョーさんで「ちょっとエッチな話」だったので、慌てて立ち上がる。

「お、オレは聞かない方がいいよね。女の子だけの方がよさそうだ。先に失礼するよ」
「エッチな話に過剰反応しすぎ! のろいさんって実はムッツリなんじゃないー?」

 うるせぇ。
 さっきゅんを睨んでいるとオジョーさんが話し出す。

「そんなに浮いた話はないが、姫に借りたおどりこの服はちょっと恥ずかしかったかのぅ」
「腹筋がとってもセクシーだったね」
「腹筋? 見せて見せてー」
「あっ、くすぐったいのじゃ」
「じゃ、じゃあ姉さん、オレ、戻るよ」
「うん。おやすみー」

 逃げるように部屋に戻って、深いため息を吐く。
 オジョーさんのお腹見ちゃった……。
 可愛いもの大好きな姉さんのおかげで女の子らしい女の子には慣れてはいるけど、女の子に対して何も感じないわけではない。いや、姉さんには何も感じないけど。
 好きな相手じゃなくたって、男は反応してしまうことだってあるのだ。

「……はぁ」

 なんか食べてムラムラするのをやり過ごそう。溜め込むつもりはないけど、食欲と性欲は近いから脳を誤魔化せることが時々ある。今日みたいにテンションが上がった面々が突撃してきかねない日には左手と仲良くするよりずっと安全だ。
 かいふくチェリーをつまんでいると、何か余計なことに気付きそうな気がした。
 歯磨きをしてベッドに潜り込んでも、隣の部屋からは相変わらずキャッキャとはしゃぐ声が聞こえてきていた。この声をBGMに寝るのも悪くない。
 寝る直前に瞼の裏に浮かんだのは、なぜか先程さっきゅんが握手会が楽しかったと笑う顔で。
 これからはオレも推しがいる生活になるんだろうか。オレの好みのタイプはさっきゅんみたいな天然系じゃないハズなんだけど。


のろくんの「姉さんだって十分センター狙えるでしょ」が私的ピークです。
あとは「食欲と性欲は近い」。