Mymed

プロデューサーも恋愛禁止?

 ネオ=アルラウネとは元々十傑衆という立場上よく話す間柄だったが、勇者に魔力を封じられて飛ぶこともできなくなってからは特に手助けをしてもらうことが増えた。いい同僚だとは思うし、仕事の後の飲み会もお互い参加する方ではある。だが、プライベートで飲むのはほとんど初めてかもしれない。サシで飲むのは間違いなく初めてだ。

「こちらがかえんどくりゅうさんの行きつけですの?」
「まぁな」

 ネオ=アルラウネがきょろきょろと店内を見渡す。実際に行きつけのバーではあるが、奥の方の半個室を頼んだのは初めてだった。
 俺の連れがネオ=アルラウネであることに気付いたマスターが目の奥でニヤリと笑う。ネオ=アルラウネには見えないようにマスターに向かって違う違う、とジェスチャーをするが、奴は大丈夫大丈夫、というジェスチャーを返してきた。完全に勘違いされてる。
 半個室に入るとすぐに、ネオ=アルラウネはふふっと笑った。

「おしゃれなお店ですわね」
「初めてだったか?」
「えぇ。もっと森林エリアに近いお店に行くことが多いですわね。それか、お部屋で飲むことも多いですわ」
「へー。何飲む?」
「ではワインをいただきますわ。おつまみは後で」
「マスター、ビールとワイン」

 おしぼりで手を拭きながら、「改めて」と切り出すとネオ=アルラウネはメニューを見るのをやめてこちらを見た。

「お嬢の件、ありがとう」

 これが本日の名目だ。お嬢を姫をはじめとした女の子と遊ばせてあげたいという老婆心だが、想像以上に楽しそうにしているのでこちらとしても嬉しい。そしてそれは、お嬢を受け入れてくれたネオ=アルラウネがいたからこそだ。だからこうして、改めてお礼する機会を作ってもらったというわけである。
 頭を下げると、ネオ=アルラウネは短くため息をついた。

「……。正直、貴方の紹介でなければ魔王様に部外者がいるとお伝えしたところですわ」
「やっぱりバレてたか」
「伊達に寮母を引き受けてませんわよ」

 俺の部下になった親戚のドラゴン族の女の子が職場で馴染めていないようだから姫のアイドル練習に参加させてほしい。そう頼んだときは快諾されたものの、実際にお嬢に会ったネオ=アルラウネは一瞬だけ表情を曇らせた。気のせいかと思っていたが、やはり気のせいではなかった。
 お嬢のプロフィールについて詳しく聞かれないなとは思っていたが、初対面で嘘はバレていたらしい。お嬢と話し合って俺の部下という設定以外にもいろいろなプロフィールを作っていたものの何も聞かれなかったので拍子抜けした覚えがあるが、ただ聞かないでいてくれただけだったようだ。

「お待たせしました、ワインとビールです」

 飲み物と乾きものがきたので乾杯したはいいが、微妙に気まずい。
 嘘を言ってたんだから、怒るよな。そもそも、お嬢をサンドドラゴンの部屋から出すべきじゃなかった。
 だけど、練習会場まで送り迎えするとき、お嬢は本当に楽しそうだ。あの笑顔が見れなくなるのは、寂しいものがある。

「……先日は食堂で行いましたが、今後は外部で握手会やライブをするつもりですわ。表向きは事業拡大ですわね」
「え? 続けさせてもらえるのか?」
「仕方ありませんわ。貴方の頼み事なんて滅多にありませんもの。春雨サラダを頼んでいいかしら」

 さらっと言われて、一瞬だけ呆気にとられた。真面目な彼女のことだから、もっと怒っているかと思っていた。

「サラダ、だめですの?」
「いや、頼もう。頼んでくる」

 食べ物は提携している隣の居酒屋からの出前になるので、隣の居酒屋の方に行けばよかっただろうか。でもネオ=アルラウネにはこっちの静かなバーの方が似合うと思ったから、初めから食べ物を頼むとわかっていてもやっぱりこっちを選んだかもしれない。

「マスター、隣に春雨サラダと酢豚を頼んでくれ。あと八宝菜とか、なんか野菜系」
「あれってさ、森林エリアボスのネオ=アルラウネ様ですよねぇ?」
「何もないからな。仕事の話だから」
「そりゃ奥の部屋とりますよねぇ。改様と仕事の話をするときはカウンターだったけどなぁ」
「だーかーらー」

 カウンターにばんっと手をつくと、目の前にビールジョッキが置かれた。

「はい、どうせもう飲み干してるでしょ?」
「……どうも」

 ビールジョッキを持って席に戻ると、ネオ=アルラウネはナッツを摘まんだまま驚いた顔でこちらを見ていた。

「まだたくさん残っていますのにおかわりを?」
「あー、そうなんだが」

 いつもなら乾杯で口をつけてそのまま飲み切っている量だが、ジョッキにはビールがまだなみなみと入っていた。
 緊張しているわけでもないのに。
 先に来た方を飲んでしまうと、ネオ=アルラウネは「いい飲みっぷり」と笑った。それから、「オジョーさんのことは」と続けるので黙っておかきを口に入れる。

「最初は、ちょっと腹が立ちましたわよ。あんな明らかな嘘」
「……すまん」
「でも、貴方も大丈夫と判断したのでしょう? ……魔王様を誘拐したときは血迷ったものだと思いましたが、それでも貴方の判断はけっこう尊重していますのよ」

 俺は、思ったよりもこの女に信頼されているらしい。
 嬉しいというのは少し違うか。ほっとしたのかもしれない。

「ありがとな」
「構いませんわ」

 ネオ=アルラウネがワインを一口あおる。照れ隠しのようだった。

「先に春雨サラダです」
「取り分けましょうか?」
「いや、自分で好きなだけ取るから大丈夫だ」
「ではわたくしもそうしますわ」

 長年十傑衆として顔を合わせている割には、話題に上るのはお嬢を含め、アイドルの話ばかりだ。十傑衆の揃った飲み会よりもよく喋るしワインのペースも早いように感じる。
 食事が進むにつれ、酒が入ったネオ=アルラウネの頬が赤く染まっていく。止めた方がいいよなぁと思いつつも、水を差すのはなんとなく躊躇われた。

「姫も、オジョーさんも、さっきゅんさんも、可愛いのですわ」
「うん」
「眩しくて、眩しくて……、羨むわけではないのですけれど」
「うん」
「とにかく可愛いのですわ」

 ちなみにこの話はもう3回目だ。酒が回って舌ったらずで、「で」が「れ」に聞こえている。

「さっきゅんさんは、本当にがんばっていてぇ」

 一人でダンスの練習をしていることも多い淫魔には最近固定ファンがつき始めたそうだ。これはもう5回聞いた。その他、お嬢のファン(名前は伏せられているがおそらくサンドドラゴンだ)がお嬢グッズをたくさん買っていて、新曲はおそらくお嬢が初のセンターを獲得することも2回聞いた。

「なに、お前そんなに酒弱かったの」
「弱くないですわ」

 やっぱりペース配分を間違えたのだろうか。だとしたら、それほど楽しんでくれているということだろうか。
 対して、俺は全然飲めていない。なんでだろう。ネオ=アルラウネを見ていると飲むのを忘れてしまう。

「もうやめとけって。せめて水飲め、水」
「水? 植物は水でも飲んどけってことですの!?」
「うわ、めんどくせぇ」

 ワイングラスをネオ=アルラウネから遠ざけ、代わりにさきほどマスターが持ってきてくれた水が入ったグラスを押しやると、ネオ=アルラウネはグラスではなくその隣の俺の爪を掴んだ。
 手が小さいんだな、などとドキッとしてしまう。

「めんどくさいって、いつも言われますわ」

 誰に言われたのかは、言わずもがな。昔の男だろうな。
 ネオ=アルラウネは見るからに重そうだもんな。間違いなく付き合ったら面倒なタイプ。
 長く生きてるもんだから、それくらいはわかる。だからこそ、俺は今、ときめいた自分に戸惑っている。

「どんだけ酔ってんだよ」

 冷静を装ってもう一度水が入ったグラスを押しやると、ネオ=アルラウネは水を飲んで真っ赤な顔で俯いた。それが酒以外のせいもあるのかは、わからない。

「お、男のひとと飲むの、久しぶりでしたのよ。誰彼構わず二体でなんて行きませんわ。なのに貴方はなんにも……、なんにも気にしてなくて。わたくしばっかり」

 いや、まずいってこれは。何がまずいって、同僚を可愛いと思ってしまったのが。
 酒のせいにするのは簡単だ。
 このまま俺の部屋に来るかと聞けば、たぶんどうにかなる。お互い、いい年をした大人だ。そこからトラブルになることはないだろう。きっと俺も彼女も、適度に寂しくて、適度に親しい。それで、深入りせずに適度に慰め合うことができる。
 それはとても簡単。
 簡単、なんだが。
 思わず、ため息がこぼれていた。

「……帰るか。送る」
「……あ……、はい」
「また飲もうぜ」

 じゃあなんで難しい方を選ぶのかというと、自分で思っていたよりもネオ=アルラウネとの関係が大事だったらしい。「らしい」というのは、自分でも思ってもみなかったからだ。

「……あの、ごめんなさい。さっき言ったことは、忘れてくださ――……」
「俺だって、お前のことばっかり見てて全然酒なんて飲めなかったよ」
「……」
「次は、お前の行きつけな」
「……えぇ、いいですわよ」

 部屋まで送って、帰り際に次回の約束を取り付けるだけなんて。俺はこんなに奥手じゃなかったはずなのだが。
 
 その後、俺とネオ=アルラウネは何度かサシで飲む機会が増えるが、何も進展することはなかった。
 この日、ダンスレッスンが終わった頃にお嬢を迎えに行った俺に姫が爆弾を落とすまでは。

「プロデューサー、最近火ダルマ君と枕営業してるんでしょ?」

 俺も、ブハァッと飲み物を噴き出したネオ=アルラウネも、目が泳いでいた。だが俺たちが度々サシで飲む関係について姫の耳に入るほど噂を立てられることに動揺してのことであって、枕営業なんてない。

「ま、枕営業って」
「? スポンサーと仲良くすることでしょ」
「違いますわ……、スポンサーに特別な接待をして仕事をもらうことですわ。してませんわよ、枕営業なんて」
「俺もアイドルの仕事なんて回せないからなぁ」
「あ、そうなんだ」
「アジ、お前……ま、枕……。わしの加入はもしや」
「違うっつーの! 俺はただ、普通にアルラウネのことが」

 はた、と口をつぐむも、ネオ=アルラウネはギョッとした顔で硬直し、女子たちが目を輝かせている。

「……お嬢、帰るぞ」

 シンと静まり返ったレッスン室を出ていこうとすると、姫が首を傾げた。

「好きなんだよね?」
「……姫はちょっと黙って」
「なんで教えてくれないの? 好きなんでしょ?」
「ひ、姫ぇ、あんまり茶化すとだめだよ。学校でもあったでしょ? こういうの」
「知らない。学校……行ってナイ」

 急にカタコトになる姫をよそに、お嬢が俺の肩を叩いて、親指を立てて見せた。

「アジ! わしは応援するのじゃ」
「だーっ、保育園かここは!! お嬢、帰るぞ!」
「なんじゃ、プロデューサーと付き合っとるなら、別に隠すこと――……」
「付き合ってませんわ。あなた達、かえんどくりゅうさんに失礼ですわよ」

 おそらく助け舟を出してくれたネオ=アルラウネだったが、この手の話題を前に年頃の女の子たちが盛り上がらないわけがない。静まる気配はなかった。はっと淫魔が口元を押さえる。

「え……まだ告白してないんですか? けっこう噂になってるし」
「だから、何でもねぇんだよ!!」
「ご、ごめんなさい」
「……俺こそ大声出して悪かった」

 思っていたより大きな声が出ていたらしい。淫魔が目に涙を浮かべて「ごめんなさい」と繰り返すので、とりあえずもう一度謝りはしたものの気まずいので部屋を出た。ドアを閉めてすぐに追いかけてくるようにお嬢も出てきた。

「わしの迎えに来たんじゃろ?」
「あ……、おう、帰るぞ」
「さっきゅん先輩にはわしも謝っておいたが、詫びを入れんとな」
「そうだな……」
「わ、わしは少しは気持ちがわかるつもりじゃ。アジの爪はちと鋭いからのぅ。傷付けるのが怖くて、好きだからこそ拒むんじゃろ?」
「お嬢も言うようになったな」

 笑って誤魔化したが、告白なんてできるはずもない。
 何も思わなかった方が、きっと気楽に触れられた。
 確かに俺の手は抱き締めるのに向いてないし、俺の毒は自分しか守れない。……が、ネオ=アルラウネはきっとそれをものともしない。あいつは俺よりも強い。精神的にも、十傑衆としても。
 俺が恐れているのは、彼女を傷付けてしまうことじゃない。俺の弱さをさらけ出すことが、怖い。
 そしてそんな自分勝手な自分に嫌気がさす。ネオ=アルラウネを傷付けてしまうのが怖いなどという傲慢な理由の方がまだよかった。

「年取ると、身動き取れねぇもんだな」

 いや、年のせいでもないか。俺のちっぽけなプライドのせいでしかない。
 今日の淫魔に対しての反応はひどかったな、と改めて反省しつつ夕食を食べに食堂へ行くと、その淫魔がいた。話しかけに行くと、淫魔は驚いたようだったが笑顔で対応してくれた。それこそ、ファンに対応するときのように。

「淫魔、さっきは本当にすまなかった」
「大丈夫です。私こそ、からかうようなこと言ってすみません」
「いや、本当に、お前は何も悪くないよ。図星を指されて逆上なんてそれこそガキだよな」
「……私のせいで、プロデューサーと変な感じになっちゃいますよね」
「大丈夫大丈夫、お互いいい年だからな。そういえば、ファンができたんだろ? ネオ=アルラウネも褒めてたぞ」
「そうなんです。フードを被っててあんまり顔は見えないんですけど。私達のグループのファンはみんな恥ずかしがり屋さんなんですねぇ」

 あくましゅうどうしがフードを被って素性を隠して姫を応援しているのは知っているが、他にもいたのか。

「がんばれよ」
「はい! かえんどくりゅうさんはやっぱりオジョーちゃんのファンですか?」
「ん? 俺は……そうだなぁ、三人とも可愛いっていう奴のファンかな」

 案外、本人以外にはさらりと言えるものだ。
 淫魔は首を傾げたものの、すぐに顔を輝かせた。

「ハーピィさんですね!」
「ちげーよ」

 今はこの距離感でいいじゃないか。などと思うのは、甘えすぎだよな。
 とはいえ、今更何を言えばいいのだろうか。

「プロデューサーも恋愛禁止だったら、このぬるま湯に浸かってられるのになぁ」
「あ」
「なんだよ、お前らが言ったんだろう? 告白もまだですかとか」

 淫魔が俺の後ろを見ていることに気付いたのは、数秒経ってからだった。誰かいる。淫魔が驚くような奴が。予想が外れてくれ、と強く願ったが、後ろの相手のため息には聞き覚えがあった。

「まったく、ぬるま湯ですわね」
「あー……、それじゃ、私、影武者修行があるので……」
「えぇ、また」

 淫魔においていかれて、食堂のド真ん中でネオ=アルラウネと向かい合う。
 まさかここで重要な話をしようってことにはならないよな?

「いいんじゃないですの、それで」
「え」
「ですから、ぬるま湯でいいと思いますわよ。貴方もさっき言ってましたけれど、お互いいい年ですもの。もう、本気で恋愛する体力なんてありませんわ。では、また飲みにいきましょうね」
「あ、あぁ」
「それだけですわ。あの子たちがはしゃいだって、わたくしは全然気にしていませんわよ」

 拍子抜けした。いや、これ、フラれたのに近いんじゃ? というか、どこから聞いてたんだ。そんなことを思い巡らせていると、ふと気づく。
 ――本気で恋愛する体力なんてありませんわ。
 それはつまり、向こうにも恋愛の予感はあったってことだ。
 
 それでも再びの現状維持は、本当に何も変わらなかった。仕事中はもちろん、飲み会も、何も。

「いや、いいんだけどさ。すげぇ有言実行なんだけど、『じゃ、現状維持でいこうね』っつってさ、いけるもんか!?」

 サンドドラゴンの部屋で頭を抱えたのは、食堂で話してから一週間経った日だった。この日もアイドルの練習があり、お嬢を迎えに行ってきた。その時ももちろんこれまで通りだ。

「……話がよくわからないんですけど、茶化されて不満、大人の対応をされて不満で、かえんどくりゅうさんはどうしたいんです」
「そうじゃそうじゃ!」
「わかってたら苦労しねぇよ。今日もサシ飲みだぞ、どうしてこうなった……」

 横から砂風呂に寝ている姫が「ねぇねぇ」と声を掛けてくる。寝てなかったのか、と思いつつ姫を見ると、キラキラした目でこちらを見ていた。

「前に落とし穴みたいなものって言ってたでしょ? 結局キミは落ちたの? 落ちてないの?」
「……ん、まぁ、ハマったけど浅くて抜け出せる、かも」
「落ちたんだ? セクシーはどうなんだろうねぇ。落とし穴の中で一人って、寂しそうだよね」
「……そうだな」

 俺も寂しいのだろうか。
 わかんねぇ。
 でも、ネオ=アルラウネを見ると相変わらずときめいてしまう。
 向こうがどうなのか、というのは、考えたこともなかった。

「かえんどくりゅうさん」

 なんで俺を見つけたら小走りで来るのか、とか。
 なんで笑顔なのか、とか。
 可愛いな、とか。
 そうだ。姫の言うとおり。俺はしっかりと落ちている。思いがけず。
 じわじわと胸に広がる熱を吐き出すように、その言葉はポロリと出てきた。

「……あのさ」
「はい?」
「付き合う?」

 ぱちっと、伏せがちな目が大きく見開かれた。そして笑うので、返事も聞いてないのにほっと息を吐く。
 言ってみれば案外、なんでここまで遠回りしたんだろうというくらいのものだ。

「……燃え上がらせるのは得意なのに、捕まえるのは苦手ですのね」
「そうでもないはずなんだが、試してみるか?」
「ふふ、いいですわよ。わたくしの方が捕まえるのは得意かもしれませんけれど」

 蔦でくるりと腕に巻き付かれる。これをサシ飲み初日にやられてたら引いたかもしれない。でも今はただ可愛いと思う。必要な遠回りだったのかもしれない。

「でも、しばらくは貴方とわたくしの秘密ですわね」
「え?」
「プロデューサーも恋愛禁止、ですわ。まさかわたくしが最初にルールを破るとは思ってもみませんでしたけれど」
「じゃあ、枕営業だな」
「言い方がおじさんくさいですわぁ……」

 いつか俺が自分の弱さを認められたら、ルールだとか関係ないだとか堂々と言えるのかもしれない。それまで、ほんの少し待たせてしまうかもしれない。けれどきっと、この女は笑って待ってくれるのだろう。この、強くて美しい同僚は。