Mymed

護衛のお仕事

 珍しく応援を頼まれてそよ姫の護衛に来てみれば、見知った顔があった。

「おやおや、賊を片付けますんで少々お待ちくだせェ」

 刀を抜いて見せると、俺を案内した男にどつかれた。

「こら、姫のご友人に失礼な態度を取るな」
「……ご友人……?」

 チャイナ娘は、俺以外には見えないように邪悪な顔で笑った。ムカつく。
 二人が外で遊ぶのを護衛しないといけないらしい。冗談じゃない。乗ってきたパトカーを置いて歩いて街へ出ることになった。

「護衛の人ぉ~、アイス買って来いアルぅ~」
「は? お前護衛と使いっ走りの区別もつかねェのかい」
「あら、わたくしの友人のお腹の護衛はしてくださらないの? 買ってきてください」
「……自分で買って来い」
「やったーアルゥゥゥ!」

 金を渡すと、見たこともない笑顔でアイス屋に走って行く。この護衛が終わったら絶対殺す。なんだお腹の護衛って。
 日陰でチャイナ娘を待っていると、そよ姫はくすりと笑った。

「神楽ちゃん、あなたが護衛で嬉しいのね」
「はい?」
「だって、普段は護衛を撒いて遊ぶのよ」

 ようやく、俺が呼ばれたわけを理解した。あいつに敵うやつがいねぇってことだ。情けねェ。

「……とんだじゃじゃ馬姫で。あいつなら護衛の代わりも務まるが、他のご友人と一緒の時は撒こうなんて考えないでくだせェ」
「ふふ、信頼していらっしゃるのね」
「俺があいつについて知ってるのは強さだけでさァ」
「そよちゃん! これが庶民の味ネ!」

 チャイナ娘が3人分のアイスを買ってきたので、その場で立ち食いするハメになった。なんで俺まで。

「アイス美味しいアル」
「経費で落ちなかったら万事屋に請求するからな」
「ふふふ」

 チャイナ娘がアイスに喜ぶただの女子のようで、調子が狂う。チャイナ娘はそよ姫の友人としてずっと年相応の女子の顔をしていた。
 環境が悪いんじゃねぇか、とは、口を出すことではないか。あれはあれで楽しそうだし。
 本当にこいつの強さしか知らなかったのかもしれない。

「神楽ちゃん、あれは何?」
「あー……、なんか、姉御が男に夢を見せて女が天下取るところって言ってたアル。天下取りに行ってみるアルか?」
「チャイナゴルァ! あかんって、それはあかんって!! あっち行くぞ!」

 チャイナ娘の腕をつかむと、奴はぎょっとした顔をした。

「わ、私より、そよちゃんを」
「俺がそよ姫に触れていいわけねェだろがィ。俺がお前を引っ張ってお前がそよ姫を……」
「そよちゃんの手を握り潰したらいけないアル」
「……キャバクラなんて連れていっていいわけねェだろ。行くぞ。つーか、もう帰ってもいい時間だろィ」

 チャイナ娘の腕を離して城へ向かって歩き出すと二人はとぼとぼついてきた。
 なんだ、俺が真ん中でお手々繋がなきゃならなかったのか?
 ていうか、人間の手なんて意識してれば握りつぶさねェだろ。他のことに気を取られるとでも?

「そよちゃん、またネ」
「えぇ、今日は神楽ちゃんのお友達も一緒でとても楽しかった」
「友達なんかじゃないアル!」
「あらそうなの、じゃあ護衛の方、お願いがございます」
「はい?」
「神楽ちゃんをおうちまで送ってください」
「はい!?」
「それでは」

 そよ姫を目付役に引き渡してチャイナ娘と並んで立ち尽くす。動いたのは俺が先だった。

「……送るから乗れ」
「い、いいアル。私ちょっと」
「いいから」

 助手席に押し込んで車を出すと、チャイナ娘はうつむいて傘を抱きしめた。柔らかそうな頬が赤い。

「……デートみてェ」
「な、なんか言ったアルか? アイス食べ過ぎてお腹痛いアルゥゥゥ」
「……おいマジか」
「漏れるぅぅぅぅ!」
「漏らすな!? 漏らすなよ!? 俺そういうの絶対無理だから! いくらお前のでも無理だからな!!」
「うごぉぉぉぉぉぉぉ」

 万事屋の前で車を止めると、チャイナ娘は驚くほどの早さで下のスナックに入っていった。入れ違いでスナックのママが出てきた。かぶき町の四天王だか何だか知らないが、睨まれると身構えてしまう。

「うちの子が警察の厄介になったのかい」
「いや、そよ姫のとこに遊びにいって送り届けただけでさァ。腹が痛いっていうから急いで」
「おかしいねェ、痛そうなのは胸だったよ」
「……」

 このママやっぱ苦手だ。

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沖神を真面目に書けない。